
障害者虐待防止法では「心理的虐待」も明確に禁止されています。
しかし現場では、本人を傷つけるつもりがなくても、日常の何気ない言葉が「虐待的な言動」に該当してしまうケースがあります。
この記事では、福祉職員が避けるべき言葉遣いと、適切なコミュニケーションへの改善ポイントを解説します。
障害者への言葉遣いが「虐待」と判断される理由
心理的虐待は目に見えにくい
暴力行為とは違い、言葉による傷つきは外から見えません。
そのため、本人がストレス反応を示すまで気づけず、支援者の「慣れ」や「急ぎの作業」で乱暴な表現が続いてしまうことがあります。
言葉は「権力差」に影響されやすい
支援者と利用者には、避けられない支援関係の力の差があります。
同じ言葉でも、支援者から利用者に向けて言うと強く響き、威圧や支配のメッセージと受け取られやすくなります。
虐待的と捉えられてしまう言葉遣いの特徴
① 命令口調・強制的な言い方
例:「早くして」「これやって!」「黙って座ってて」
強い命令は、本人の意思決定やペースを奪い、心理的に追い詰めます。
② 大人を子ども扱いする言い方(幼児語も含む)
例:「いい子だね〜」「もう、困った子だね」
幼児化は本人の尊厳を損ないます。
特に成人への幼児語は虐待に近づく危険性が高いとされています。
③ 否定・叱責・人格否定に響く言葉
例:「なんでできないの?」「あなたのせいで大変なんだよ」「わがまま言わない!」
行動ではなく人格を責める言葉は深い心理的ダメージを与えます。
④ からかい・嘲笑・見下し
例:「またやってるよ」「そんなことも分からないの?」「ちょっと変だよね」
支援者が悪気なく言ってしまう冗談も、利用者には羞恥や恐怖につながります。
⑤ 無視・ため息・冷たいトーン
言葉を発さなくても、表情や声の圧で相手を否定したり支配する形になれば心理的虐待と判断されることがあります。
NG発言が生まれやすい場面
職員が忙しい・焦っているとき
支援の質より作業優先になり、語気が荒くなるリスクがあります。
トラブル・パニック対応時
「落ち着いて!」と強く言ってしまうなど、相手の感情を否定する言葉が出やすくなります。
関係に慣れてきた時期
「これくらい言っても大丈夫だろう」という馴れ合いで境界線が緩みます。
避けるべき言葉遣いと改善例
命令 → 選択肢を示す言い方へ
NG:「早く来て!」
OK:「こちらに来られそうですか?準備できたら教えてくださいね」
否定 → 状況確認と支援提案へ
NG:「どうしてできないの?」
OK:「ここが難しかったかな?一緒にやり方を確認しましょう」
叱責 → 感情の受容へ
NG:「わがまま言わないで!」
OK:「気持ちがつらい時なんですね。どうしたら落ち着けそうですか?」
冗談まじりの揶揄 → 尊重の姿勢へ
NG:「また失敗?困るよ〜」
OK:「次はどうするとやりやすいかな?一緒に考えましょう」
支援現場で大切にしたい言葉の原則
① 本人の意思を尊重する
まず「選ぶ余地」「決める余地」を言葉でつくることが支援の基本です。
② 行動と感情を切り分ける
行動をただすのは良い支援ですが、人格否定になる表現は避けます。
③ 「時間を奪わない言葉」を意識する
急がせず、本人の理解速度に合わせて丁寧な説明をすることが心理的安全につながります。
④ トーン・距離・表情も言葉の一部として扱う
優しい内容でも、強い声や睨むような表情だと虐待的に感じられます。
まとめ|言葉は支援の「道具」であり「環境」
障害のある方は、毎日、支援者の言葉に囲まれています。
言葉は環境であり、支援の質そのものです。
丁寧で尊重のある言葉は、安心感をつくり、行動を安定させ、信頼関係を築きます。
反対に乱暴な言葉は、意図しなくても心理的虐待となり、本人の自己肯定感や生活の質を大きく損なってしまいます。
日ごろの言葉遣いを見直すことは、利用者の尊厳を守り、職員自身の支援をレベルアップさせる近道です。
このテーマは現場の研修やミーティングの議題として扱っても効果が大きい領域です。




