
障害福祉の現場で「意思決定支援」は、理念だけでなく記録として残すことではじめて実践になります。支援は、記録に書かれなければ「なかったこと」になってしまう。これは少し残酷ですが、制度と組織の現実でもあります。
この記事では、意思決定支援を適切に可視化する記録方法として、アセスメントとケース記録の書き方を、現場目線で整理します。新人職員からリーダー層まで、そのまま使える構成です。
なぜ「意思決定支援の記録」が重要なのか
意思決定支援は目に見えにくい支援です。声かけ、選択肢の提示、迷う時間を待つ姿勢。どれも形に残りにくい。しかし、記録がなければ次のような問題が起こります。
- 本人の意思が支援の途中で失われる
- 支援者が変わると支援方針も変わる
- 「代行」と「支援」の区別が説明できない
- 虐待防止や第三者評価で根拠を示せない
記録とは、支援者のためのメモではなく、本人の意思の履歴です。時間をかけて育てた選択が、記録によって未来につながります。
意思決定支援の記録で押さえる2つの柱
意思決定支援の記録は、大きく分けて次の2つで構成されます。
- アセスメント(意思を理解するための整理)
- ケース記録(日々の支援の積み重ね)
この2つが噛み合っていないと、「評価は立派、記録は空白」という奇妙な状態になります。
アセスメントで記録すべき視点
本人の「わかり方・伝え方」を記録する
意思決定支援のアセスメントで最も重要なのは、能力の有無ではありません。どのように理解し、どのように表現するかです。
記録例としては、次のような観点があります。
- 言葉での理解が得意か、視覚情報が有効か
- 選択肢は何個まで提示できるか
- 時間をかけると意思が明確になるか
- 表情・行動・拒否で意思を示す傾向があるか
ここでは評価語を避け、「観察された事実」を書くのがコツです。
過去の選択とその結果を整理する
人は突然、意思を持ち始めるわけではありません。過去の選択の積み重ねが、今の意思をつくります。
- これまでに選んできた生活習慣
- 好み・嫌悪がはっきりしている場面
- 選択後に満足していた様子
- 後悔や混乱が見られたケース
これらをアセスメントに書いておくと、「本人らしさ」を支援チームで共有できます。
ケース記録で書くべき意思決定支援のポイント
「何を決めたか」より「どう支えたか」を書く
意思決定支援のケース記録でありがちな失敗は、結果だけを書くことです。
✕ 記録例:
本人の希望によりAを選択した。
〇 記録例:
AとBの写真を提示し、それぞれの特徴を説明。本人はAを指差し、笑顔が見られた。確認のため再提示すると同様の反応があったため、Aを選択した。
この違いが、支援と代行の境界線になります。
迷い・揺れ・変化も記録する
意思は固定されたものではありません。揺れるのが自然です。
- その場では決められなかった
- 一度決めたが翌日に変更があった
- 体調や環境で選択が変わった
これらは「失敗」ではなく、意思決定のプロセスです。丁寧に記録することで、次の支援が洗練されます。
虐待防止・説明責任につながる記録の視点
意思決定支援の記録は、虐待防止の証拠にもなります。
- 本人の拒否がどう扱われたか
- 支援者の都合が優先されていないか
- 選択肢が不当に狭められていないか
第三者が読んでも、「この支援は本人中心だった」と理解できる記録を意識しましょう。
記録を書くときの実践的なコツ
- 支援者の感想と事実を分けて書く
- 抽象語(しっかり・落ち着いて)を減らす
- 本人の反応は具体的な行動で表現する
- 書けなかった日は「なぜ書けなかったか」を振り返る
記録は文章力よりも、観察力のトレーニングです。
まとめ|記録は「意思を未来へ渡す橋」
意思決定支援の記録とは、過去の報告書ではありません。本人の意思を、次の支援者、次の場面、次の人生へ渡すための橋です。
丁寧なアセスメントと、プロセスを残すケース記録。この2つが揃ったとき、意思決定支援は制度の中でも、現場の中でも、ちゃんと息をし始めます。




