
福祉・介護の現場では、支援者の「言葉」が利用者の行動や感情に大きな影響を与えます。同じ内容でも、伝え方によって行動がスムーズになることもあれば、不安や混乱を招くこともあります。
本記事では、言葉が行動に影響する仕組みと、環境調整の視点から言葉かけを改善する具体的な方法を解説します。
支援者の言葉が行動を変える理由
支援の現場で言葉の影響力が大きいのは、言葉そのものが「環境の一部」だからです。行動科学(ABA)でも、言葉は「刺激」として扱われ、利用者の行動を促したり止めたりする要因になります。
言葉は「指示」だけでなく「安心感」や「予測性」をつくる
利用者にとって、支援者の声のトーン・スピード・表情・距離感は環境要素です。
例えば…
- 「ゆっくりで大丈夫ですよ」
→ペースを調整しやすくなる - 「これから歯磨きします」
→行動の予測ができ、混乱を防ぐ
言葉は単なる“伝達手段”ではなく、行動が起こりやすい環境をつくるツールとして機能します。
否定的な言葉は行動を乱しやすい
否定的な表現は、利用者の感情を揺さぶり、行動が不安定になりやすい傾向があります。
- 「なんでできないの?」
- 「早くして」
- 「ダメ!」だけで終わる声かけ
これらは“情報”が不足しており、不安や緊張を増やす環境になってしまいます。
環境調整の視点で考える「言葉かけ」
言葉かけを変える前に、「環境調整」という視点を持つと改善がスムーズです。
環境調整とは、利用者が行動しやすいように周囲の条件を整える支援方法です。
① 行動の“きっかけ”としての言葉を整える
利用者が行動を始めやすくなる言葉に変えるだけで、行動が安定しやすくなります。
- Before:「早く座って」
- After:「このイスに座るよ」「ここがあなたの席だよ」
ポイントは、具体的・肯定的・行動がイメージしやすい言葉を使うこと。
② 不安を減らす言葉を増やす
行動がうまくいかない背景に“見通しのなさ”が潜んでいることがあります。
- 「あと3分でお風呂に行きます」
- 「次はご飯です。そのあと休憩できます」
時間や手順の情報を与えることで、行動に向かいやすい状態をつくれます。
③ 行動を強化する言葉を意図的に使う
望ましい行動が起きたら、言葉で強化(良い行動を増やすこと)します。
- 「自分でボタン留められたね!」
- 「席に戻れたね、助かるよ」
強化は行動科学の基本で、言葉による強化は日常で最も使いやすい支援技術です。
④ 刺激過多を避けるために「短い言葉」に調整する
言葉が多すぎると、環境の情報量が増えすぎて利用者の負担になります。
- ×「さっき言ったでしょ?そろそろ次に行かなきゃいけないから準備しようね」
- ○「次は準備です」「靴を履きます」
必要な情報をシンプルにすることで、行動の取りかかりが良くなります。
支援者の言葉かけ改善に役立つ“環境調整のチェックリスト”
日常的に見直しやすいものだけをまとめました。
チェックポイント
- 言葉が否定形よりも肯定形になっているか
- 情報が多すぎず、短く整理されているか
- 行動の手順や予測を伝えているか
- 声のトーンが落ち着いているか
- 表情や姿勢が安心感を与えているか
- 行動ができたときに“具体的に褒める”言葉を使っているか
このチェックを習慣化すると、支援者の言葉が利用者にとって“行動しやすい環境”へと変わっていきます。
支援者の言葉が環境として働く——理解しておくべきポイント
支援者の言葉は、利用者の行動を左右する「環境要因」であり、
環境調整の工夫はそのまま言葉かけの改善につながります。
- 否定より肯定
- 抽象より具体
- 情報過多よりシンプル
- 不安を減らす予告や見通し
- 行動を増やす強化の言葉
こうした調整を積み重ねるほど、利用者の行動は安定しやすく、支援者側の負担も減っていきます。
まとめ
支援者の言葉は、利用者にとって「環境の一部」であり、行動のきっかけにも、不安の原因にもなります。
環境調整の視点で言葉かけを見直すことで、利用者が行動しやすくなり、生活の安定や安心感にもつながります。
支援の質を高めるためには、言葉を単なるコミュニケーションではなく、環境をデザインするツールとして捉えることが重要です。




