
「急がせていないつもり」が一番危ない
障害福祉や介護の現場では、常に時間に追われています。
次の予定、記録、他利用者への対応…。
その中で「急がない支援を大切にしたい」と思っていても、気づけば利用者を“流れに乗せる側”になってしまうことがあります。
急がない支援とは、単に動作をゆっくりにすることではありません。
本人のペースで理解・選択・納得する時間を守ることです。
本記事では、忙しい現場でも“急がせない関わり”を実現するための具体的なコツを解説します。
急がない支援とは何か|「時間」ではなく「主導権」の話
急がない支援という言葉は、しばしば誤解されます。
- 時間をたっぷりかける支援
- 業務効率を下げる支援
- 人手に余裕がある現場だけの理想論
実際にはそうではありません。
急がない支援の本質は、行動の主導権が誰にあるかです。
- 支援者の都合で次に進んでいないか
- 本人が「理解した」「選んだ」状態になっているか
- 返事や反応を待つ前に声かけを重ねていないか
たとえ短時間でも、主導権が本人にあれば、それは急がない支援です。
なぜ現場では「急ぐ支援」になりやすいのか
急がせてしまう支援者は、決して乱暴なわけでも、意識が低いわけでもありません。
むしろ、責任感が強い人ほど陥りやすい傾向があります。
主な理由は次の3つです。
1つ目は、「止まること=遅れ」という思い込み。
沈黙や迷いの時間を「進んでいない」と感じ、つい口を出してしまいます。
2つ目は、失敗させてはいけないという防衛反応。
本人が迷う前に答えを示すことで、トラブルを回避しようとします。
3つ目は、現場のリズムに合わせることが正解だという文化。
流れを止めない職員が「できる人」と評価されやすい環境も影響します。
“急がない支援”を実現する5つのコツ
①「待つ時間」を業務として捉える
待つことはサボりではありません。
利用者が考え、感じ、選択するための支援行為そのものです。
- 返事が来るまで沈黙を保つ
- 視線や表情の変化を観察する
- すぐ次の指示を出さない
この「何もしない時間」が、実は最も専門性の高い関わりになることがあります。
② 先回り説明をやめる
「どうせこうなるから」「前も同じだったから」と、説明や選択を先回りすると、支援は一気に急ぎ足になります。
- あえて選択肢を一つずつ提示する
- 本人の反応を見てから次を出す
- 沈黙=拒否と決めつけない
理解のスピードは人それぞれです。
支援者の経験値で補いすぎないことが大切です。
③ 声かけの量を半分にする
忙しいときほど、支援者の言葉は増えがちです。
- 「ほら、次はこれ」
- 「さっきも言ったよね」
- 「早くしよう」
声かけが増えるほど、相手は急かされていると感じます。
意識的に言葉数を減らすことで、相手のペースが自然と浮かび上がります。
④ 「急がなかった結果」を記録に残す
急がない支援は、成果が見えにくいという弱点があります。
だからこそ、記録が重要です。
- 待ったことで本人が選べた
- 時間をかけたら拒否が減った
- 自分から動き出す場面があった
こうした変化を書き残すことで、
急がない支援=意味のある支援だとチームで共有できます。
⑤ チームで「急がない合図」を決める
個人の努力だけでは限界があります。
チームで共通認識を持つことが不可欠です。
- 「今は待ちの時間」という合図
- 声かけを控える役割分担
- 急がせてしまった場面の振り返り
急がない支援は、個人技ではなくチーム戦です。
急がない支援がもたらす3つの変化
急がない関わりを続けると、現場には次のような変化が起こります。
- 利用者の不安や混乱が減る
- 支援者の指示・修正が少なくなる
- 結果的に全体の流れが安定する
一見遠回りに見えて、実は最短ルートになることも少なくありません。
まとめ|「急がない」は技術であり、姿勢である
急がない支援は、時間の余裕があるからできるものではありません。
どう関わるかを選び続ける姿勢です。
忙しさは、これからもなくなりません。
だからこそ、「急がない」という選択を意識的に積み重ねることが、
支援の質を静かに、しかし確実に変えていきます。
現場のスピードを落とさずに、支援の深度を上げる。
それが、“急がない支援”の本当の価値です。




