
利用者の意思がうまく読み取れない場面は、障害福祉の現場では日常的に起こります。言語表出が少ない方、認知特性によって感情が表に出にくい方、または緊張や環境要因で反応が変わりやすい方など、状況はさまざまです。
こうしたときに役立つのが、観察(アセスメント)と行動分析(ABA的視点)です。この記事では、意思の読み取りが難しい場面で使える支援技法を、基礎から実践レベルまで分かりやすく解説します。
意思の読み取りが難しい理由とは?
1. 言語表現が限られている
発語が少ない・単語での表出が中心・うなずきのみなど、表現手段が限定されていると、ニーズが読み取りにくくなります。
2. 非言語情報が変化しやすい
表情・視線・姿勢などのサインが個人差に大きく、緊張や疲労で大きくブレる場合があります。
3. 行動が複雑化している
「困りごと」「拒否」「こだわり」「不安」などの要素が絡み、行動に複数の意味が重なってしまうケースもあります。
4. 環境要因が読み取りを難しくする
音・光・温度・他利用者の動き・職員の距離感など、周囲の刺激が意図の見えにくさを生みます。
意思を読み取るための観察技法
1. ABC分析(行動の前後関係を見る)
ABA(応用行動分析)の基本フレームで、次の3つに着目します。
- A:Antecedent(前提・きっかけ)
何が起こる直前にその行動が出たか? - B:Behavior(行動)
どのような行動として表れたか? - C:Consequence(結果)
行動の後、周囲の反応や状況変化は?
その結果、その行動が増えるのか減るのか?
行動の意味を推測する際、ABCの整理は特に有効です。
2. 非言語サイン(視線・表情・身体の動き)のパターンを記録する
意思を読み取るうえで、本人特有の癖やサインを知ることが重要です。
例:
- 考える時は視線を右に向ける
- 不安時は手を胸の前に持っていく
- 好きな物を見る時は動きがゆっくりになる
観察は「事実ベース」で、推測ではなく見えたことだけを記録します。
3. 反応の“幅”を見る
ひとつの行動だけで判断せず、次のポイントを見ると精度が上がります。
- 何回同じ行動が出る?
- 日内・日間で反応の差は?
- 人によって反応が変わるか?
パターンを捉えられるほど、意思の理解に近づけます。
行動分析を使った意思の読み取りアプローチ
1. 行動の“機能(目的)”に注目する
ABAでは、行動には次の4つの機能があると考えます。
- 要求(アクセス):欲しい物・活動にアクセスするため
- 回避:嫌な状況から離れるため
- 注目:人の関心を引くため
- 感覚刺激:落ち着く/興奮するなど感覚の調整のため
どの機能が強いかによって、支援の方向性が変わります。
2. 仮説 → 検証のサイクルで精度を上げる
一度の観察で意思を「断定」するのは危険です。
安全に支援するためには、
- 観察から仮説を立てる
- 小さな支援で検証する
- 反応をもとに修正する
という循環が有効です。
3. 環境調整で“本人が意思を出しやすい状況”を作る
意思が読み取りづらい背景には、環境要因が絡むことが多いです。
例:
- 照明が刺激になりやすい → 間接照明や明るさの調整
- 職員が近づきすぎ → 距離を少し広げる
- 選択肢が多すぎる → 2択に絞る
- 声掛けが長すぎる → シンプルな言葉にする
環境調整は、意思の“見えやすさ”を大きく底上げします。
意思の読み取りを助ける実践的な支援技法
1. 反応時間を十分に確保する
返答が遅い=理解していない、とは限りません。
5〜10秒など、意図的に待つことで本来の反応が出ることがあります。
2. 選択肢の提示(物・写真・ジェスチャー)
言葉による意思表出が難しいときは、次の方法が効果的です。
- 実物(例:飲み物の紙パック)
- 写真カード
- ジェスチャー
- 指差しコミュニケーション
「選びやすい表現手段」を見つけると、支援の幅が広がります。
3. 小さな変化を拾う“微細観察”
姿勢、呼吸、目の動き、筋緊張など、わずかな変化が意思の手がかりになる場合があります。
例:
- ほんの少しだけ体が前に傾く → やりたい
- 呼吸が浅くなる → 不安や緊張
- 指先が動く → 迷っているサイン
微細変化は経験知の集積が重要です。
4. 本人に“確かめる”コミュニケーション
推測した意思が本当に正しいかは、本人の反応で確かめます。
- 「これでいい?」と目線や表情の変化を見る
- YES/NOサインを共有しておく
- 選択肢を丁寧に確認する
意思確認のプロセスそのものが、尊重につながります。
チームで意思を読み取るためのポイント
1. 情報共有を“事実ベース”で統一する
「〇〇さんはきっとこう思っている」ではなく、
「〇〇をした時、△△の行動が出た」という事実を共有すると認識が揃います。
2. 観察記録を簡単に書けるフォーマットを作る
忙しい現場では記録が負担になりがちです。
短く書ける形式(ABCシート・チェック式)を整えると効果的です。
3. 新人・非常勤も共有しやすいサイン集を作る
本人特有の表情・動作の意味を一覧化し、誰でも確認できるようにすることで、意思の読み取りが安定します。
まとめ|観察と行動分析は“意思への架け橋”
意思を読み取りにくい場面でも、観察と行動分析を活用することで、
「何を求めているのか」「どんな気持ちなのか」が徐々に見えてきます。
支援の質を高める鍵は、
推測で決めつけず、観察 → 仮説 → 検証のサイクルを丁寧に回すこと。
時間はかかっても、本人が“伝えられた”と感じられる関わりが、安心と信頼を育てます。




