
支援現場でよく使われる「行動問題」という言葉。
叩く、大声を出す、拒否する、動かない——こうした行動が起きたとき、つい「問題行動が出た」と整理してしまいがちです。
けれど、行動そのものは結果であって、原因ではありません。
行動を「問題」と決めてしまうと、支援は止まり、観察は浅くなります。
逆に、行動を「情報」として扱うと、支援の選択肢は一気に増えます。
この記事では、行動問題を問題に固定しないための観察視点を、現場で使える形で整理します。
「行動問題」という言葉が生みやすい落とし穴
行動問題というラベルは便利ですが、副作用も強めです。
- 行動だけに注目してしまう
- 「困る/困らない」の基準が支援者側になる
- 原因探索より、止め方探しに意識が向く
この状態では、行動の背景にある本人の体験・感覚・意図が見えなくなります。
行動は、言葉にならなかったメッセージだと考えた方が、支援は前に進みます。
観察視点① 行動は「いつも同じか?」を見る
最初に確認したいのは再現性です。
- 特定の時間帯だけ起きていないか
- 特定の職員・場所・活動で多くないか
- 始まり方と終わり方は決まっていないか
行動がランダムに見えても、丁寧に振り返ると条件付きで起きていることがほとんどです。
「たまたま」より「パターン」を疑う。ここが観察の第一歩です。
観察視点② 行動の直前に何があったか
行動の“瞬間”より重要なのは、その直前です。
- どんな声かけがあったか
- 何を求められていたか
- 環境は騒がしくなかったか
- 体調・疲労・空腹はなかったか
行動は、環境との相互作用で生まれます。
本人の内側だけを探しても、答えは半分しか見つかりません。
観察視点③ 行動の後、周囲はどう動いたか
行動の「後」も重要な観察ポイントです。
- 要求が取り下げられていないか
- その場を離れることができていないか
- 注目や関わりが急に増えていないか
これは「良い・悪い」の話ではありません。
行動の結果、何が起きたかを知ることで、行動が果たしている役割が見えてきます。
観察視点④ 本人にとっての「合理性」を考える
支援者から見ると不可解な行動も、本人にとってはとても合理的な場合があります。
- 嫌な刺激から逃げる
- 分からない状況を止める
- 助けを呼ぶ
- 自分のペースを守る
行動を「なぜそんなことを?」ではなく、
「その状況で、その人が選べた最善は何だったか」という視点で見ると、評価が変わります。
観察視点⑤ 「できない」ではなく「やりにくい」を探す
行動問題の背景には、能力の不足ではなく環境とのミスマッチが隠れていることが多くあります。
- 指示が抽象的すぎる
- 切り替えの予告がない
- 感覚刺激が強すぎる
- 選択肢が多すぎる
本人を変える前に、環境を疑う。
これは甘さではなく、かなり合理的な戦略です。
観察を記録に落とすときのポイント
観察視点を活かすには、記録の書き方も重要です。
- 評価語より事実を書く
例:「不穏だった」ではなく「大きな声で3回叫び、椅子から立ち上がった」 - 主語を明確にする
誰が、何を、どこで、どの順で - 解釈と事実を分ける
「〜と思われる」は分けて書く
記録は、原因追及ではなく支援の仮説づくりの材料です。
行動を「問題」にしないことは、放置ではない
誤解されやすい点ですが、
行動を問題にしない=何もしない、ではありません。
むしろ逆です。
観察し、理解し、環境や関わりを調整するという、
一番エネルギーを使う支援を選ぶ姿勢です。
行動が減ることより、
行動が起きなくても済む環境が整うこと。
そこに支援の成熟があります。
まとめ|行動は「困りごとの翻訳文」
行動問題は、本人が発している翻訳途中のメッセージです。
「問題」として切り捨てると、翻訳は永遠に完成しません。
観察視点を変えるだけで、
支援は対処から理解へ、管理から対話へと静かに移動します。
行動を読む力は、支援者の経験値ではなく、
どこを見ているかで決まります。
世界は複雑ですが、観察はいつも味方です。




