
「意思決定は難しい」から始めない
強度行動障害のある方への支援では、「意思決定は無理」「選ばせると混乱する」という前提が、無意識のうちに置かれがちです。しかし、行動が激しいことと、意思がないことはまったく別の話です。
意思決定支援の核心は、本人が選べる形に環境と関わりを整えることにあります。
本記事では、強度行動障害のある方に対する意思決定支援について、選択肢の作り方と関わり方の具体例を中心に解説します。
強度行動障害と意思決定支援の基本理解
強度行動障害とは何か
強度行動障害とは、自傷・他害・破壊行動など、生活に大きな支障をきたす行動が頻発する状態を指します。多くの場合、
- 不安や予測不能な状況
- 要求や意思が伝わらないこと
- 感覚過敏・感覚鈍麻
といった要因が背景にあります。
行動の激しさ=意思の欠如ではない
行動が強く出る場面ほど、実は
「選べない」
「伝わらない」
「決めさせてもらえない」
という状態が重なっています。
つまり、意思決定支援は行動障害を“減らすための後処理”ではなく、行動を生みにくくする予防的支援でもあります。
強度行動障害のある方における意思決定支援の考え方
目標は「正しい選択」ではなく「選べた経験」
支援者が陥りやすいのは、「安全で合理的な選択をさせる」ことが目的になることです。しかし意思決定支援の本質は、
自分で選び、その結果を経験することにあります。
成功体験の積み重ねが、次の選択への安心感を育てます。
選択できない理由は本人ではなく環境にある
選択が難しい背景には、
- 選択肢が多すぎる
- 抽象的で理解しづらい
- 時間的・心理的余裕がない
といった環境要因が存在します。
支援者の役割は、意思を引き出す設計者になることです。
選択肢の作り方|強度行動障害のある方への具体的工夫
選択肢は「2択」が基本
選択肢が多いほど混乱や不安は増します。
基本は
- AかB
- 今か後で
- これか、あれか
という明確な2択です。
「どれがいい?」ではなく
「AとB、どっちにする?」
と提示することで、選択行動が起きやすくなります。
抽象語を避け、具体物で示す
言葉だけの選択は負荷が高くなります。
- 実物
- 写真
- イラスト
- ピクトグラム
など、視覚的に理解できる選択肢を使うことで、意思表出が安定します。
例:
×「外出する?」
○「公園の写真」と「部屋の写真」を並べて提示
選択肢は“どちらもOK”な内容にする
一方が実質的に否定されている選択肢は、選ぶ意味を失います。
- どちらを選んでも支援者が受け止められる
- 安全が確保されている
この条件を満たした選択肢を用意することが重要です。
選択のタイミングを行動が荒れる前に
強度行動障害が出ている最中は、意思決定どころではありません。
- 落ち着いている時間帯
- 予測しやすい日課の中
で、先取り的に選択の機会を設けることが効果的です。
関わり方のポイント|「選ばせる」より「一緒に考える」
急かさず、待つことも支援
沈黙や迷いは、考えている証拠でもあります。
すぐに答えを代弁せず、
- 視線
- 体の向き
- 手の動き
といった微細なサインを待つ姿勢が、信頼関係を育てます。
選択後の行動を肯定的にフィードバックする
選んだ結果がうまくいかなくても、
「選んだこと自体」を評価する関わりが重要です。
例:
「自分で決めたね」
「教えてくれてありがとう」
これにより、選択=安心できる経験として記憶されます。
行動が出たときこそ意味を探る
強い行動は「困った行動」ではなく、意思表出の最終手段であることが多くあります。
「何を伝えたかったのか」
「どんな選択肢があれば防げたか」
をチームで振り返ることが、次の支援につながります。
チーム支援で大切な視点
「選択肢の基準」を共有する
支援者ごとに選択肢の出し方が違うと、本人の混乱につながります。
- 選択肢は2つまで
- 視覚提示を基本とする
- 否定されない選択肢を用意する
など、共通ルールを持つことが重要です。
記録は「行動」より「選択の過程」を残す
記録には、
- どんな選択肢を提示したか
- どのように選んだか
- その後の様子
を残すことで、支援の再現性と質が高まります。
まとめ|意思決定支援は行動を変える前に関係を変える
強度行動障害のある方の意思決定支援は、特別な技法ではありません。
- 選べる形に整える
- 伝わる手段を用意する
- 選んだことを尊重する
この積み重ねが、行動の安定と生活の質向上につながります。
意思決定支援は、問題行動への対応ではなく、尊厳ある生活を支える基盤です。





