はじめに｜意思決定支援は「できない」を探す支援ではない
意思決定支援とは、障害のある人が「自分で選び、自分で決める」機会を保障するための支援です。
困難がある部分を代わりにやることではなく、本人が主体になれる“環境と関わり”を整えることが中心にあります。
福祉現場では、支援者の判断が先に立ちやすい場面もあります。だからこそ、意思決定支援は日常のケア全体を見直す大切な視点となります。
障害者の意思決定支援とは？｜概念と基本理念
本人の意思を尊重し、選択を広げる支援
意思決定支援は、本人の意思や好みを丁寧にくみ取り、
その人が望む方向に選択できるよう「必要な情報」「選択肢」「サポート」を整える支援です。
自分の人生を自分で決める権利（自己決定権）を保障するための実践であり、
障害者総合支援法や成年後見制度でも重要な理念として位置づけられています。
「代わりに決める」から「一緒に決める」へ
本人の意思が分かりにくい場合、支援者が先回りして決めるケースは少なくありません。
意思決定支援では、その判断を急がず、
「どうすれば本人の意思を引き出せるか？」という視点で考えます。
・情報の提示方法を工夫する
・選択肢を具体化する
・“小さな決定”を積み重ねる
こうした積み重ねが、本人の「決める力」を育てます。
意思決定支援の重要性｜なぜ今、強調されるのか？
自己決定は生活の質（QOL）に直結する
人は、自分で選び、決められると、
生活への満足度や幸福感が大きく上がると研究でも示されています。
障害がある人にとっても同じで、
衣食住・余暇・仕事など、あらゆる場面で自己選択を保障することはQOL向上につながります。
権利擁護・虐待防止にも不可欠
意思を尊重しない支援は、
知らず知らずのうちに「支配」「強制」「過干渉」に向かうリスクがあります。
意思決定支援は、
虐待防止・権利擁護のための最も基本的なアプローチでもあります。
実践で使える意思決定支援のステップ
1. 本人の価値観・好み・過去の行動を理解する
本人が言葉で表現できなくても、
行動パターン、表情、過去の選択、家族の情報などから「その人らしさ」が見えてきます。
・どんな時に笑顔が出る？
・嫌がる行為は？
・選んできた人生のパターンは？
支援はここから始まります。
2. 情報をわかりやすく提示する
意思決定の難しさは「理解できない」「イメージできない」ことにあります。
そのために、次のような工夫が有効です。
・写真、 pictogram（ピクトグラム）を使う
・実物を見せる
・短く分かりやすい言葉にする
・1つずつ説明する
・選択肢を減らして提示する
理解しやすい情報ほど、本人の意思が明確になります。
3. “小さな決定”を積み重ねる
いきなり大きな選択（就労、住まいなど）を決めるのは難しいものです。
日常の小さな決定から積み重ねることで、判断の経験値が育ちます。
・今日の飲み物は何にする？
・外出先はどちらにする？
・作業の開始時間はどうする？
日々の決定の積み重ねこそ意思決定支援の土台です。
4. 本人が決められない部分だけ必要最小限の補完をする
どうしても選べない場面では、
本人の価値観や好み、過去の行動をもとに支援者が補完します。
これは“代行”ではなく、“補完的意思決定”です。
あくまで「本人ならどう選ぶか？」に基づきます。
意思決定支援における支援者の姿勢
先回りしすぎず、待つ姿勢を大切にする
意思決定には時間が必要です。
支援者が急ぐと、本人の意思が出る前に支援者の意見が混ざってしまいます。
「待つ」「見守る」「ゆっくり意思を引き出す」姿勢が鍵になります。
“安全優先”と“意思尊重”のバランスをとる
安全配慮は重要ですが、
安全を理由に“禁止”を増やしすぎないよう注意が必要です。
危険をゼロにするのではなく、
リスクを調整しながら本人の選択を尊重するという考え方が求められます。
現場で起きやすい課題と対応策
意思が読み取りにくいケース
表情・行動・音声などの変化から推測し、
複数の支援者で情報共有しながら解釈のズレを防ぎます。
家族の意向との調整が必要なケース
家族の意見と本人の意思が異なるとき、
丁寧な説明と合意形成が求められます。
支援者は「本人の代弁者」として役割を果たすことが大切です。
支援者によって判断が変わるケース
意思決定支援は“チームで共有する支援”。
ルール化、記録の統一、ケース会議などで共通理解を作り、支援のバラつきを減らします。
実例で見る「意思決定支援」
例1｜食事の選択が苦手な利用者
写真カードでメニューを示し、
実物に近いイラストを使うことで選べるようになったケース。
例2｜外出先を選べなかった利用者
「候補を2つに絞る」「一緒に現地写真を見る」ことで選択行動が増えたケース。
例3｜進路選択に悩む利用者
本人が語った“好きな活動”“苦手な作業”を整理し、
体験利用を増やすことで、本人が納得して選べたケース。
まとめ｜意思決定支援は“その人の人生”を支える基盤
意思決定支援は、単なる技術ではなく、
支援者の価値観そのものを問うアプローチです。
・本人を尊重する
・本人が選べる環境を整える
・小さな決定を積み重ねる
・補完は最小限にする
これらを丁寧に積み重ねることで、
障害のある人が“自分の人生を自分で歩む力”を育てられます。
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