
【結論】心理的虐待とは、「心を傷つけ、尊厳を損なう関わり」
障害者支援における心理的虐待とは、利用者の尊厳・自尊心・安心感を損なう言動や態度のことです。
暴力のように目に見えないからこそ、本人の心に深く残り、行動・感情・生活意欲に影響を与えることがあります。
支援者の言葉や態度は利用者にとって“環境そのもの”。
だからこそ、支援の質を守るうえで十分な理解が必要です。
心理的虐待に該当する典型例
見下した言い方・命令口調
利用者を子ども扱いしたり、威圧的な口調を使うケースです。
例:
・「何回言えば分かるの?」
・「さっさとやってよ」
・「あなたは無理でしょ」
尊厳を損なう関わりは、表情や声のトーンでも伝わります。
無視・隔離・排除
意図的にコミュニケーションを断ったり、仲間から外すような行為。
例:
・利用者からの声かけを無視
・職員同士で利用者を笑いものにする
・特定の利用者だけ活動に参加させない
「相手にしてもらえない経験」は深い不安と孤独を伴います。
侮辱・否定的なレッテル貼り
人格や能力を否定する言葉は強い心理的ダメージを与えます。
例:
・「わがままだからこうなるんだよ」
・「あなたは手がかかる」
・「そんなこともできないの?」
レッテルが利用者の自己評価に影響し、行動制限にもつながります。
威圧的態度・大声で叱責
声の大きさ・表情・立ち方によって相手を支配するような関わり。
例:
・椅子の後ろに立って睨む
・怒鳴りつける
・物を強く置いて威圧する
利用者に「怒らせないようにしなければ」という過度な緊張を与えます。
グレーゾーンの心理的虐待とは?
心理的虐待は“境界が曖昧”なことが特徴です。
悪気がないのに、結果的に利用者が傷つくケースも少なくありません。
ここでは現場で判断が迷いやすいポイントを整理します。
「指導」と「心理的虐待」の境界
適切な支援や指導であっても、伝え方次第で虐待に近づくことがあります。
グレーな例:
・安全確保のために叱ったが、声が威圧的になった
・スケジュール管理を教える際に「どうしてできないの?」と言ってしまう
・混乱を防ぐために制止したが、体を押したように感じられた
判断のポイント:
- 利用者の表情や反応はどうだったか
- 代替可能な伝え方があったか
- 支援目的より「職員の感情」が優先されていないか
スタッフの“忙しさ”による粗い対応
時間がないときほど態度が雑になり、無視や短い返答が増えがちです。
例:
・「あとで!」と強い口調で遮断
・困りごとを聞かないまま離れてしまう
一時的にはグレーですが、繰り返されると心理的虐待に近づきます。
支援者の“笑い”が利用者を傷つけるケース
悪意がなかったとしても、利用者の言動を笑いものにするのは危険です。
例:
・職員同士の「いじり」が利用者に届いている
・利用者の苦手行動をネタにして会話する
本人がいる場所での“内輪ノリ”は誤解を生みやすく、尊厳にも影響します。
虐待かどうか迷った時の判断基準
①「その行為は、支援目的として必要か?」
必要な理由が説明できない言動は、虐待リスクが高まります。
②「利用者の尊厳を守れているか?」
自分が同じ状況ならどう感じるかを基準にすることで、視点が整います。
③「職員の感情が優先されていないか?」
怒り・焦り・苛立ちが言葉に現れていないかを振り返ります。
④「第三者が見ても“適切”と言えるか?」
他者視点は最も有効なチェックポイントです。
心理的虐待を防ぐための職場づくり
チームで「言葉の共通ルール」をつくる
・否定的な言葉を使わない
・指示は短く明確に
・利用者の前で職員同士の不満を話さない
共通ルールがあると、曖昧な場面でもチームの基準で動けます。
振り返り文化をつくる
虐待防止は“反省ではなく学習”。
困った事例を共有し、代替の言い方や関わりを話し合うことで質が上がります。
職員の感情ケア
心理的虐待は、支援者のストレスや疲労が引き金になることも。
相談しやすい風土や、休息が確保されるシフト体制が大切です。
まとめ|心理的虐待を防ぐ鍵は「伝え方の質」
心理的虐待は、目に見えないからこそ気づきにくく、誰もが加害者になり得ます。
けれど、
・言葉
・態度
・声のトーン
・距離感
などの“コミュニケーションの質”を整えることで、利用者の安心と尊厳は守られます。
支援者自身の感情との付き合い方、チームの対話、振り返りの習慣が、心理的虐待の防止につながります。




