
自閉症スペクトラム(ASD)の方々をサポートする現場で、誰もが一度は直面するのが「言葉がうまく伝わらない」という壁です。
良かれと思ってかけた言葉が、かえって相手を混乱させたり、パニックを引き起こしたりすることもあります。しかし、視覚的なアプローチを取り入れることで、驚くほどスムーズに意思疎通ができるようになります。
現役の障害者施設職員の方へ向けて、今日から実践できる「3つの視覚的アプローチ」を解説します。
1. なぜ「言葉」だけでは伝わらないのか?
ASDの方の多くは、耳から入る情報(聴覚情報)の処理が苦手な反面、目から入る情報(視覚情報)を理解する能力に長けている「視覚優位」の特性を持っています。
- 聴覚情報: 消えてなくなる。一度に複数を処理しにくい。
- 視覚情報: 形として残る。自分のペースで確認できる。
「言葉で伝える」のをやめるのではなく、「視覚的な手がかりを添える」という意識が大切です。
2. 心を通わせる「3つの視覚的アプローチ」
具体的にどのような方法があるのか、3つのステップで紹介します。
① スケジュールの可視化(時間の見える化)
「次は何をするの?」「いつ終わるの?」という不安は、ASDの方にとって大きなストレスです。
- 具体的な方法:
- 写真やイラストを使った「スケジュール表」を作成する。
- 「はじまり」と「おわり」を明確にする(終了した項目をひっくり返すなど)。
- タイマーを使って「あとどのくらいか」を物理的に示す。
② 手順の構造化(やり方の見える化)
「ちゃんとやって」という抽象的な言葉は伝わりません。動作を細かく分解し、目に見える形で示します。
- 具体的な方法:
- 「視覚的構造化」: 使う道具と使わない道具を分ける。
- 手順書: 写真付きのカードで、1→2→3と順番を提示する。
- 完成見本: 「これと同じ状態にすれば終わり」というゴールを実物や写真で見せる。
③ 感情・意思のカード化(気持ちの見える化)
自分の気持ちを言葉にするのが難しい方には、コミュニケーションの「道具」を渡しましょう。
- 具体的な方法:
- PECS(絵カード交換式コミュニケーション): 欲しいもののカードを渡して要求を伝える。
- 感情スケール: 「今の気分はどれ?」と、怒りや悲しみの度合いをイラストで選べるようにする。
- 「おしまい」「手伝って」カード: 困ったときに提示できる専用カードを用意する。
3. 実践のコツ:情報を「絞る」
視覚的アプローチを行う際、最も重要なのは「情報の断捨離」です。
ポイント:
- 1つのカードに情報を詰め込みすぎない。
- 背景はシンプルにする(余計な刺激をカット)。
- 本人の理解力に合わせたシンボル(実物 > 写真 > イラスト > 文字)を選ぶ。
まとめ:視覚は「安心」をつくる言語
視覚的アプローチは、単なる「指示の道具」ではありません。相手の不安を取り除き、「この人の言うことは理解できる」「自分の気持ちをわかってもらえる」という信頼関係を築くための架け橋です。
まずは、身近な作業の一つを写真カードにすることから始めてみませんか?

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