
音楽療法士(おんがくりょうほうし)とは、音楽を使って心や体の健康をサポートする専門職です。
日本では「公的な国家資格」はまだありませんが、音楽療法士として活動するための民間資格や学会認定資格があり、医療・福祉・教育の現場で活躍しています。
音楽療法士(MT)の役割
音楽療法士は、単に音楽を聴かせるだけではなく、対象者の状態に合わせて音楽を「治療的に」活用します。
心理面へのアプローチ
不安やストレスを和らげる、情緒を安定させる、感情表現を促す。
身体面へのアプローチ
リズム運動で体の動きを促す、発声・呼吸機能を高める。
認知面へのアプローチ
記憶を刺激する、注意力・集中力を高める。
社会面へのアプローチ
グループ活動でコミュニケーションを促進、孤立感を減らす。
活躍する場
病院(精神科、リハビリ科、小児科など)
障害者施設(知的障害・発達障害の方への支援)
高齢者施設(認知症予防・生活の質向上)
学校(特別支援教育)
地域コミュニティ(予防・健康増進)
資格・学び方
日本音楽療法学会が認定する「音楽療法士(補)」と「音楽療法士」が代表的な資格。
音楽大学や専門学校、通信教育で学べる。
心理学、医学、リハビリ、福祉の基礎知識と音楽理論・実技を幅広く学ぶ必要がある。
特徴
音楽が得意でなくても、療法士としての関わり方が重要。
個人や集団の状態に合わせて即興演奏・歌・リズム活動を組み合わせる。
医師、看護師、PT(理学療法士)、OT(作業療法士)などと連携してチーム支援することも多い。
理学療法士(PT)や作業療法士(OT)との違い
理学療法士(PT)・作業療法士(OT)との違いを説明します。
音楽療法士(MT)・ 理学療法士(PT)・ 作業療法士(OT)の違い
音楽療法士(MT) | 理学療法士(PT) | 作業療法士(OT) | |
主な目的 | 音楽で心身の健康をサポート | 運動機能の回復・維持 | 日常生活動作や社会参加の回復 |
アプローチ方法 | 演奏・歌唱・鑑賞・即興 | 物理療法、運動療法 | 作業活動(調理・工作・ゲームなど) |
対象者 | 心理的ストレス、認知症、障害、発達支援、終末期ケア | ケガ、病気、加齢で動けない人 | 生活に支障がある人、精神障害、発達障害 |
特徴 | 音楽を使い「感情・行動・交流」を変化させる | 身体機能そのものを改善する | 「生活のしやすさ」「役割の回復」を重視 |
資格 | 日本音楽療法学会などの民間資格 | 国家資格 | 国家資格 |
➡ PT・OTは国家資格で、身体や生活のリハビリに直結
➡ 音楽療法士は音楽を使った心理・情緒・認知面のケアが中心
音楽療法士の適性チェックリスト
次の項目で5つ以上当てはまる人は向いている可能性大です!
[ ] 音楽(歌・楽器)が好き、得意でなくても続けている
[ ] 人と関わるのが好き、話を聴くのが得意
[ ] 誰かの役に立ちたい、支えたい気持ちが強い
[ ] 子どもや高齢者、障害のある人とも自然に接することができる
[ ] 相手の気持ちや雰囲気を察するのが得意
[ ] 人前で歌う・演奏することに抵抗が少ない
[ ] 心理学や福祉、医療にも興味がある
[ ] チームで協力して仕事をするのが好き
[ ] 即興で対応するのが苦にならない
[ ] 地道に勉強や練習を続けられる
音楽療法士は、音楽スキルだけではなく、コミュニケーション力・観察力・柔軟性がとても大切です。
資格取得の勉強では心理学や医学も学ぶので、人の心や体の仕組みに興味がある人にも向いています。
具体的な仕事の流れ(1日のスケジュール例)
では、音楽療法士の具体的な1日の仕事の流れをイメージしやすいように紹介します。
音楽療法士の1日の仕事の流れ(例:高齢者施設)
時間 | 内容 | ポイント |
9:00 | 出勤・準備 | 当日のプログラム確認、楽器・機材の準備 |
9:30 | チームミーティング | 看護師・介護職・OT/PTと情報共有(体調・注意点) |
10:00 | 個別セッション① | 例:認知症の方と一対一で歌や楽器演奏 ➡記憶想起・発声・感情表現を促す |
11:00 | 個別セッション② | 例:身体リハ中の方にリズムで運動をサポート |
12:00 | 昼休憩 | 利用者さんと一緒に食事する場合もあり |
13:00 | グループセッション | 例:5〜10人で合唱・楽器合奏・音楽ゲーム ➡交流・社会性・感情の安定 |
14:00 | 振り返り・記録 | 参加者の反応・発言・体調変化を記録 |
15:00 | 職員との打ち合わせ | 次回プログラム内容やケア方針を相談 |
16:00 | 準備・片付け | 使用した楽器・機材を清掃・整理 |
16:30 | 勉強・研修 | 音楽療法の研究・楽譜作成・技術練習 |
17:30 | 退勤 | 必要に応じて翌日の計画を作成 |
現場による違い
病院(精神科) → 心の安定やストレス軽減が目的、即興演奏が多い
障害者施設 → コミュニケーションや生活スキル向上が目的
特別支援学校 → 授業の一部として音楽を使う
訪問型 → 個人宅に出向いてピアノや楽器でセッション
仕事の特徴
事前準備が多い:楽器や曲目、プログラム作成が大切
観察力が必要:利用者の表情・声・動作をよく見る
記録が重要:誰がどんな反応をしたかを毎回残し、次回に活かす
チーム連携:他職種と情報を共有してケアの一部として行う
「グループ音楽療法プログラム」の具体例(曲目や進め方)
では、グループ音楽療法プログラムの具体例を高齢者施設での60分セッションを想定して説明します。
グループ音楽療法プログラム例(60分)
時間 | 内容 | 目的・ポイント |
0:00〜0:05 | 挨拶・導入 | 笑顔であいさつ、今日のテーマを伝える(例:秋の歌) ➡安心感を与え、集中モードに切り替え |
0:05〜0:15 | ウォーミングアップ | ・手拍子で簡単なリズム遊び ・声出し(ドレミや懐かしの唱歌) ➡発声・呼吸を整え、体をほぐす |
0:15〜0:30 | メイン①:歌唱活動 | ・季節の歌(例:「紅葉」「里の秋」) ・参加者にリクエストを聞いて歌う ➡記憶想起・感情表現・一体感 |
0:30〜0:45 | メイン②:楽器活動 | ・鈴、タンバリン、カスタネットなどを配布 ・歌に合わせてリズム演奏 ・順番にソロ演奏タイム ➡運動機能、達成感、自己表現 |
0:45〜0:55 | 音楽ゲーム | ・曲を止めたら動きを止める(音楽椅子風) ・リズムを真似する(コール&レスポンス) ➡集中力・反応力・笑いでリラックス |
0:55〜1:00 | クールダウン・まとめ | ・静かな曲で深呼吸 ・感想を一言ずつシェア ➡気持ちを落ち着け、余韻を残して終了 |
工夫のポイント
- 選曲は世代に合わせる
→ 童謡、昭和歌謡、唱歌など、思い出を引き出す曲が効果的 - 楽器はシンプルに
→ 誰でも鳴らせる楽器(鈴・マラカス・太鼓)を中心にする - 全員が主役になれる時間を作る
→ 順番に指揮者役、ソロ演奏、リクエストタイム - 安全に配慮
→ 立ち上がる動きがある場合は職員が見守る
プログラム実施後の記録例
- 〇〇さん:今日は歌をよく口ずさみ、笑顔が多かった
- △△さん:楽器演奏中に集中して取り組み、終わった後拍手をしていた
- 全体:途中で疲れやすい様子があったため、次回は曲数を減らしてみる
こうしたプログラムを毎回少しずつ変えて、
「楽しみながら」「心と体に働きかける」ことを目指します。