障害者施設での「意思決定支援」のあり方|本人の「やりたい」を引き出し支える4つのステップ

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1. 意思決定支援が「本人のワガママを何でも叶えること」になっていませんか?

障害者施設(生活介護、就労継続支援、施設入所支援など)の現場において、個別支援計画の根底に流れる「意思決定支援」。

「本人の主体性を大切にしよう」と誰もが意識しているはずですが、日々の多忙な業務の中で、以下のような壁にぶつかり、形骸化してはいないでしょうか。

  • 「言葉での表現が難しい利用者様だから、本人の『意思』がそもそもわからない」
  • 「本人の『やりたい(希望)』を叶えようとすると、事故やパニックのリスクが高まり制限せざるを得ない」
  • 「良かれと思って、職員側が『これが一番いい選択ですよ』と先回りしてレールを敷いてしまう」

意思決定支援とは、単に「本人の口から出た要求(デマンド)を100%何でも叶えること」ではありません。また、「自分で決められないから職員が代わりに決める」という代替意思決定でもありません。

本人が「自分らしく選択し、その人らしい人生の主役になること」を、環境調整や対話によってチームで伴走するプロセスそのものが、真の意思決定支援です。

この記事では、本人の「やりたい」を深く引き出し、安全を守りながら支えきるための実践的なアプローチを解説します。

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2. 意思決定支援を阻む「3つの落とし穴」

現場でよかれと思ってやってしまいがちな、意思決定支援の罠を整理します。

① 「発語がない=意思がない」という思い込み

重度の知的障害や自閉スペクトラム症(ASD)などで、言葉によるコミュニケーションが難しい利用者様を前にしたとき、職員側が「意思表示がない」とアセスメントを諦めてしまうパターンです。

しかし、本人は視線の動き、手の緊張度、呼吸の速さ、わずかなフリーズといった「非言語コミュニケーション(サイン)」で、常に「これが好き」「これは嫌だ」という強烈な意思を発信しています。

② リスク管理を優先した「過剰防衛(一律の禁止)」

「一人で散歩したい」「お小遣いで好きなものをたくさん買いたい」といった本人の希望に対し、転倒や金銭トラブルなどの「目に見えるリスク」を恐れるあまり、「危ないからダメです」と一律で行動を制限・禁止してしまう対応(不適切なケア)です。ゼロリスクの檻の中に本人を閉じ込めることは、挑戦する権利(尊厳)の剥奪にあたります。

③ 「オープンクエスチョン(開かれた質問)」の強要

「何がやりたいですか?」「どこへ行きたいですか?」という抽象的な質問は、特性(見通しを持てないことへの強い不安)を持つ利用者様にとっては、混乱(パニック)を引き起こす原因になります。「選べる選択肢が目の前に構造化されていない」状態で意思を問うことは、丁寧な支援とは言えません。

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3. 本人の「やりたい」を引き出し、支える4つのステップ

現場で迷わずに意思決定支援を回していくための、再現性の高い4ステップです。

ステップ1:非言語サインを「言語化」するアセスメント

言葉のない利用者様の「声」を聴くために、氷山モデルを用いて目に見える行動の背景をアセスメントします。

「作業の手が一瞬止まった」「いつもと違う席配置を嫌がった」といった細かな行動を拾い上げ、「もしかしたら、〇〇という環境(刺激)を拒否したいのかもしれない」という本人の真のニーズ(仮説)をチームで言語化します。

ステップ2:選択肢を「構造化(視覚化)」して提示する

本人が選びやすいよう、絵カードや写真、実物を用いて選択肢を提示します。

  • 工夫の例:「おやつ、何にする?」ではなく、「プリンとゼリー、どっちにする?」と2択(クローズドクエスチョン)で、目で見て見通しを持てる環境(環境因子)を整えてから、本人の決定を待ちます。

ステップ3:過剰防衛にならない環境調整と「合意形成」

本人の希望とリスク管理のジレンマが生じたときは、1人で抱え込まず、サビ管、ご家族、相談支援専門員を交えたカンファレンスを行います。

リスクを「頻度」と「影響度」で客観的に切り分け、「どこまでのリスクなら、本人の『やりたい』のためにみんなで引き受ける(許容する)か」の合意形成を行います。施設だけで背負わない心理的安全性が、職員の伴走を支えます。

ステップ4:期間限定の「実験(プロトタイプ)」とモニタリング

「一歩も譲らない」状態を打破するために、「まずは2週間、〇〇の対策を講じた上で試してみませんか?」と期限付きの仮説検証をスタートします。日誌にポジティブな行動の変化(笑顔が増えた、作業工賃への意欲が上がった等)を記録し、支援計画を柔軟にブラッシュアップしていきます。

4. 【事例比較】管理優先の支援 vs 意思決定を支える支援

実際の現場でよくあるシチュエーションを元に、支援員のアプローチの違いをまとめました。

シチュエーション× 避けるべき関わり(管理・代替決定)◯ 意思決定支援の実践(環境調整・強みの発揮)
就労継続支援B型での作業の割り振りの場面「〇〇さんは手が不器用だから、シールの作業は無理ですね。こちらの簡単な箱折りの作業をしてください」
本人の強み(個人因子)を無視し、意欲を削ぐダメ出しの対応。
「〇〇作業と〇〇作業、どっちをやってみたい?(視覚的提示)」
「重いものを運ぶのは、姿勢をチェックする条件で1週間試してみよう!(強みを活かす目標設定)」
日中活動のレクリエーション(外出先を選ぶ場面)「公園は飛び出しのリスクがあるから、今回は安全な公民館の室内レクに全員で一斉に誘導します」「公園に行きたい(希望)」の背景に「静かな場所で1人になりたい」というニーズをアセスメント。個別にイヤーマフを持参し、職員が並走する条件で家族とリスクを引き受け合う。
後輩が利用者の「ワガママ」に困り果てている時「そんなワガママに付き合っていたらキリがないよ。施設のルールに従ってもらって」コーチング的アプローチを用いて「さっき利用者が拒否した時、どんな非言語サインが見えた?その行動の背景にある『伝えたい声』を一緒に考えてみよう」と問いかける。

5. まとめ:意思決定を支えるプロセス自体が、最大の「安心の場」

日本知的障害者福祉協会倫理綱領にもある通り、いかなる障害があっても一人の大人としての尊厳と自己決定は守られなければなりません。

本当の意思決定支援とは、結果が100%完璧に成功することではなく、「どうすれば安全に、あなたの『やりたい』に近づけるか」を、本人と一緒に悩み、チームとご家族で話し合う、その『プロセス』自体にあります。

正解のない福祉の現場だからこそ、「失敗したらどうしよう」と自分を責めすぎる(セルフコンパッションの不足)必要はありません。「今回の仮説は通用しなかったけれど、次は別の環境調整を試そう」と前を向くレジリエンス(回復力)をチームで共有していきましょう。

あなたの丁寧な観察と、選択肢をそっと差し出すその優しい眼差しが、利用者様にとって「ここにいて安心なんだ(心理的安全性)」という最大の環境調整になります。

明日の勤務では、ほんの少しだけ答えを急ぐのを手放して、利用者様が「自分で選ぶ瞬間」をじっと待つことから、新しい意思決定支援の形を始めてみませんか?

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