
福祉・介護の現場で、利用者さんの「困った行動」に悩む職員さんは少なくありません。その解決の鍵となるのが「氷山モデル」という考え方です。
この記事では、障害者施設の職員向けに、氷山モデルの基本から実践的な活用法までをわかりやすく解説します。
氷山モデルとは?:目に見える行動は「ほんの一部」
氷山モデルとは、人の行動を「海面の上に現れている氷山」に例えた思考フレームワークです。

- 海面の上(行動): 私たちが目にすることができる「パニック」「他害」「こだわり」などの具体的な振る舞い。
- 海面の下(背景・原因): 本人の感情、感覚の過敏さ、体調、過去の経験、言葉にできないニーズなど。
私たちはつい「叩くのをやめさせよう」「静かにさせよう」と海面上の行動だけをコントロールしようとしがちですが、実はその下に隠れた「見えない理由」を理解しない限り、根本的な解決には至りません。
なぜ障害福祉の現場で「氷山モデル」が必要なのか
障害特性(自閉スペクトラム症や知的障害など)を持つ方は、自分の気持ちを言葉で伝えることが難しい場合があります。そのため、「行動」をメッセージ(コミュニケーション)として発信しているのです。
1. 表面的な対応の限界
「ダメ!」と叱るだけの対応は、氷山の一角を削り取ろうとするようなものです。原因が解決されていないため、また別の場所から新しい氷山(別の問題行動)が突き出してきます。
2. 職員のストレス軽減
「なぜあんなことをするの?」という疑問が、「もしかして感覚が過敏で苦しいのかも?」という仮説に変わることで、職員側の心理的負担や感情的な反応を抑えることができます。
氷山の下に隠れている「4つの要素」
利用者さんの行動の背景には、主に以下のような要素が隠れています。
| 要素 | 具体的な内容例 |
| 身体的要因 | 腹痛、睡眠不足、空腹、生理痛、てんかんの影響 |
| 環境的要因 | 部屋がうるさい、照明が眩しい、人が多すぎる |
| 心理的・認知的要因 | 見通しが持てず不安、やり方がわからない、失敗が怖い |
| 感覚的要因 | 特定の音が苦痛(聴覚過敏)、服のタグが痛い(触覚過敏) |
実践!氷山モデルを使ったケース分析の手順
現場で実際に活用するための3ステップを紹介します。
ステップ1:行動を客観的に観察する
「暴れている」ではなく、「○時○分に、リビングで、隣の人の腕を叩いた」というように、5W1Hで事実のみを書き出します。
ステップ2:氷山の下(背景)を推測する
「その時、周囲で何が起きていたか?」「本人の体調は?」「直前の活動は何だったか?」をチームで出し合います。
ポイント: 答えは一つとは限りません。「Aかもしれないし、Bかもしれない」と複数の仮説を立てることが大切です。
ステップ3:環境調整とスキル獲得の支援
仮説に基づき、アプローチを決めます。
- 環境調整: 音が苦手ならイヤーマフを使用する、パーテーションで区切る。
- 代替スキルの習得: 「嫌だ」と言葉やカードで伝えられるよう練習する。
まとめ:氷山モデルは「理解しようとする姿勢」そのもの
氷山モデルは、単なる分析ツールではありません。利用者さんの行動を「わがまま」や「問題」として捉えるのではなく、「何かで困っているサイン」として捉え直すための、職員の優しさの技術です。
今日から、目の前の利用者さんの「海面の下」に何が隠れているか、少しだけ想像してみませんか?




