
その「本人のため」に違和感はありませんか?
「本人のために良かれと思って選んだのに、本人は納得していないようだ…」 「意思決定支援というけれど、重度の障害がある方の本音をどう引き出せばいいかわからない」
現場で日々向き合う職員ほど、こうした壁にぶつかります。2017年に厚生労働省が策定した「意思決定支援ガイドライン」では、単なる「選択の提示」ではなく、本人の「最善の利益」を共に探求するプロセスが重視されています。
本記事では、ガイドラインのポイントを押さえつつ、明日から使える「質問の技術」を具体的に紹介します。
1. 意思決定支援ガイドラインが示す「本人の意思」の捉え方
ガイドラインで最も重要なのは、「意思が確認できない」と安易に結論づけないことです。
- 意思形成支援: 本人が自分の意思を形作るための情報を整理し、体験を提供する
- 意思表明支援: 形成された意思を、本人が表現できるようサポートする
- 最善の利益の検討: どうしても意思が不明な場合、本人の過去の履歴や価値観から「何が最善か」をチームで推測する
これらは、決して支援者が勝手に決める「代行決定」ではありません。
2. 本音を引き出す「質問技術」3選
利用者の小さなシグナルを言語化し、本音に近づくための具体的なテクニックです。
① オープン・クエスチョンで選択肢を広げる
「はい/いいえ」で答えられる質問(クローズド・クエスチョン)ばかりだと、利用者は支援者の顔色を伺って「はい」と答えてしまいがちです。
- △悪い例: 「お散歩に行きたいですか?(はい/いいえ)」
- ◎良い例: 「今日はお外に出て、どんなことがしたいですか?」
② 「ミラリング」で安心感を作る
相手が言った言葉をそのまま繰り返す技術です。「自分の話を聞いてくれている」という安心感が、深い本音を引き出します。
- 利用者: 「今日はなんだか、動きたくないんだ…」
- 職員: 「動きたくないんですね。何か気になることがありますか?」
③ 否定形ではなく「肯定的・具体的」に問う
「〇〇しちゃダメですよ」という禁止や否定は、本音を閉ざさせます。
- 言い換え例: 「どうして暴れるの?」→「今、どんな気持ちで体が動いちゃうのかな? 悲しい? 怒ってる?」
3. 表情や仕草から「沈黙の意思」を読み解く
言葉でのコミュニケーションが難しい方の場合、「質問に対する反応(非言語情報)」が答えになります。
- 視線の動き: 提示した2つのカードのうち、どちらを長く見ているか?
- 筋緊張の変化: 提案した瞬間に体が強張っていないか、緩んでいるか?
- 「拒否」は立派な意思表示: 行動障害や拒否反応は、「嫌だ」という明確な本音であると捉えます。
4. チームで取り組む「リフレクション(振り返り)」
一人の職員の判断で「本人のため」を決めつけないために、カンファレンスでの視点を変えてみましょう。
- 「その決定に、本人の過去の好みや価値観は反映されているか?」
- 「私たちの都合(管理のしやすさ)が含まれていないか?」
ガイドラインが求めているのは、正解を出すことではなく、「考え抜いたプロセス」を記録に残すことです。
まとめ:支援の主役を本人に戻そう
「本人のため」という言葉は、時に支援者の免罪符になってしまいます。
しかし、意思決定支援ガイドラインの視点と、少しの質問技術を取り入れることで、利用者の表情は確実に変わります。大切なのは、「本人の最善を一緒に探し続ける姿勢」そのものです。




